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名古屋地方裁判所 昭和37年(行)16号 判決

原告 大月土地建物株式会社

被告 名古屋国税局長 名古屋中税務署長

訴訟代理人 上野国夫 外三名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告名古屋中税務署長が昭和三六年六月一七日付でなした原告の昭和三五年一月一日から同年一二月三一日に至る事業年度の法人税についての更正決定、及び昭和三六年一〇月一四日付でなした右更正決定に対する再調査請求棄却決定、並びに被告名古屋国税局長が昭和三七年三月九日付でなした右更正決定に対する審査請求棄却決定をいずれも取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因を次のとおり述べた。

一、原告は肩書地において土地建物の殖産業を営む会社であるが、申立欄掲記の事業年度の法人税について確定申告書を提出したところ、被告名古屋中税務署長は昭和三六年六月一七日付で基本法人税額を確定申告額より九万一、二八〇円多い額に、過少申告加算税を四、五五〇円に更正決定した。

二、被告署長が右処分をなした理由は、被告署長は原告が支払い保証金として計上していた昭和三五年一月訴外大月一一個人への支出金三〇〇万円を仮払金であると認定して、右に対する利息を計上し、その結果右利息相当額だけ所得金額を多額に認定したことによるものである。

三、しかし、右金員の授受は、原告は肩書場所に有する建物の敷地をその賃借権者大月一一(賃貸人兼所有者は訴外勝浜鐘一である。)個人から借受中であるので、その貸借契約上の原告の債務の履行を担保する目的で、商慣習となつている保証金として授受したものであつて、仮払金の性質をもつものではなく、利息を計上すべき理由はない。従つて被告署長のなした本件更正決定は違法である。

四、それ故原告は、右更正決定について被告署長に対して再調査請求を、更に被告名古屋国税局長に対し審査請求をなしたが、いずれも理由なしとして申立欄掲記の日に各棄却決定がなされた。

五、よつて右更正決定、再調査請求棄却決定及び審査請求棄却決定の各取消を求める。

被告ら指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告主張の事実のうち一、二、及び四の事実、並びに三の事実中原告が肩書場所に建物を所有しており、その敷地は訴外勝浜鐘一の所有であることは認めるが、その余の事実を否認する。

二、原告が大月一一との貸借を主張する土地は、もと大月一一が訴外勝浜鐘一から建物所有を目的として賃借して、建物を建築所有していたが、既に右建物と共にその敷地賃借権も原告に譲渡したもので、原告と大月一一間に右土地についての貸借関係は存しない。原告は、その代表者である大月一一の個人的資金の需要に応じて、理由のない保証金の名目で金三〇〇万円の仮払(その実質は貸付)を行つたものである。そうして通常融資の際は利息(通常日歩二銭六厘以上)を徴するのが当然であるのに原告がこれを徴さないのは、原告が右金員に対する利息相当額の経済的利益を原告代表者に与えたものと解すべきである。そうして法人税法施行規則第一〇条の三第三項により右原告代表者へ与えられた経済的利益は給与として取扱うべきところ、原告は本件事業年度中に代表者に役員報酬として六〇万円を支払つており、名古屋市中区内の同種事業を営む法人中事業規模が類似するものの役員報酬の額、及び収入金額に対する人件費総額の占める比率と原告のそれらとを対比すると、原告代表者の報酬は六〇万円としても多額であり、原告の人件費負担率も若干高いが、従前から同金額で支出されているものであるので、右六〇万円の限度で報酬を認めることとし、右を超える前記利息相当額の経済的利益を与えられた分は過大であるので損金とはなし得ず、結局右利息相当額は益金に計上しなければならないものである。右利息相当額は、右三〇〇万円中二〇〇万円は昭和三五年一月七日に、残額は同月二〇日に授受されたものであるから、それぞれ授受の日から本件事業年度末日である同年一二月三一日迄日歩二銭六厘の割合による計二七万六、六四〇円である。それ故被告署長は右金額を所得金額に加算して本件更正決定をなしたものであり、本件更正決定に何ら違法の点はない。従つて右に対する再調査請求及び審査請求を棄却した各処分も適法であり、いずれも取消さるべき理由はない。

(証拠省略)

理由

原告主張の一、二、及び四の事実については当事者間に争いがない。争点は結局原告が係争年度中に大月一一個人に対して支出した金三〇〇万円の性質如何にあるのでこの点を判断する。原告主張の如くその主張の土地(名古屋市中区下園町一丁目五番地に所在する建物の敷地)について原告と大月一一との間に貸借関係があることについては、これに添う原告代表者本人の供述は信用できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。却て成立に争いのない甲第五号証、及び乙第一号証の一、三、並びに証人久恒克己及び原告代表者(一部)の各供述を総合して認められる。前記土地は大月一一個人が昭和二七年所有者訴外勝浜鐘一から建物所有を目的として賃借し、同地上に建物を建築所有していたが、昭和三三年右大月一一が代表者となつて原告会社を設立するに際し右建物を原告の所有に移し、以後原告が建物を所有して右土地を使用し、直接訴外勝浜鐘一に地代を支払つてきた事実(原告代表者の供述中右認定に反する部分は措信しえない。)建物所有権の移転には特別の事情のない限り敷地利用権の移転をも伴うものと認めるのが相当であることとを考え合せると右地上建物の移転の際大月一一と原告との間では土地賃借権も譲渡され、従つて両者間に貸借関係の設定はないものと認めるのが相当である。従つて、原告と大月一一との間に成立した右土地につきその賃貸借関係の保証金として金三〇〇万円を原告より大月一一に支払つたという原告の主張事実を認め得ないこと明らかである。もつとも、原告代表者本人の供述により成立の真正を認め得る甲第六号証には、昭和三三年一月二四日原告と大月一一との間に右地上の建物についての賃借契約(借主原告)が締結され、原告より大月一一に対し契約保証金として金三〇〇万円を託する約定が成立しているように記載されていることを認められるが、前記認定の事実から右甲第六号証は真実に反した記載がなされているものとして採用し難く、同号証により右地上の建物の貸借契約保証金として原告より大月一一に金三〇〇万円を支払われたということも認定できない。結局原告が大月一一に支払つた金三〇〇万円が保証金であるとの原告主張は理由がなく他に金員授受の原因の認められない以上、弁論の全趣旨によつて大月一一が返還義務を負うものと認められる本件金員の授受は、実質的には貸金の性格を有するものと認めるのが相当である。

しかる以上、原告が大月一一から利息を徴さないのは利息額相当の経済的利益を大月一一に与えたものと認むべきである。そうして、証人青木恒雄の証言によつて成立の真正を認めうる乙第二号証によれば、被告署長が原告の会社における代表者報酬について六〇万円を超える場合を過大であると認定したのは相当であると認められ、原告は係争年度中に大月一一に報酬として六〇万円を支払つたことを明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、右によれば前記経済的利益の供与は過大報酬として損金処理を認めえず、結局利息相当額を益金として計上すべきものである。原告と大月一一との間で授受された三〇〇万円のうち二〇〇万円は昭和三五年一月七日にその余は同月二〇日に授受されたものであることは原告の明らかに争わないところであるからこれを自白したものとみなすべく、通常融資の際徴される利息が一〇〇円について日歩二銭六厘以上であることは公知の事実であるから、本件事業年度の所得に計上すべき利息額は、二〇〇万円について昭和三五年一月七日から、一〇〇万円について同月二〇日から、事業年度末日である同年一二月三一日迄一〇〇円につき日歩二銭六厘の割合によつて算出される合計二七万六、六四〇円を下らないものと認められる。

以上によれば被告署長が右金額を原告の係争年度所得額に加算して本件更正決定をなしたのは適法であり、その他本件更正決定に違法を認むべき何らの主張立証もないから、その取消を求める原告の請求は理由がない。従つて右更正決定についての再調査請求を棄却した決定及び審査請求を棄却した決定についても、右更正決定を適法とした点に違法のないこと明らかであり、その他右処分に違法を認むべき何らの主張立証もないから、右各処分の取消を求める原告の請求も理由がないものである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 布谷憲治 外池泰治 白石寿美江)

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